2010/12/19

朝日ソノラマ文庫第1作

 
さてさて、昨日ご紹介したのは、小学6年生のときに読んだ小説版・宇宙戦艦ヤマト(朝日ソノラマ文庫)のストーリーです。今回の映画化のキャストで説明しました。

この小説、ノヴェライズかと思って買ったら、紹介したとおり、全然ストーリーが違うんです。石津嵐作・豊田有恒原案となっておりまして、作者の石津氏は虫プロにいた人らしい。豊田有恒も虫プロで脚本を書いていたから、アニメーション仲間なんでしょうね。
 
ちょっと首をひねってしまう部分もあるのですが、大筋では面白く、第二次大戦のパロディみたいなアニメよりはSF色が濃い内容に仕上がっています。スターシアの正体なんかはSFの王道っぽいし、ガミラスの存在も『禁断の惑星』 のアイデアを思わせる。アニメ版が好きな友人にこのストーリーを話すと、なぜか嫌がられたなあ。

ソノラマ文庫には、なかなか良質な作品がありまして、福島正美の『地底怪生物マントラ』や、『黒の放射線』(中尾明)などが読みごたえがあった。とくに後者は、顔に黒あざができる奇病が蔓延する破滅モノで、私は子供の頃からホクロが多かったので、結構怖かった記憶がある。
 
一番好きだったのが、のちの東芝の創業者、田中久重の少年時代を描いた『からくり儀右衛門』。江戸末期を舞台に、火の消えない提灯、自動鐘つき機、絵絣を織る織機などを、次々に発明していく儀右衛門が痛快で(アイデアはイラスト入りで紹介される。これがまたいい)、どこまで本当か知らないけれど、ジュニア小説としては滅法面白かった。これはまだ本棚の奥にしまってあります。

このシリーズは学校の図書館にもよく並んでおり、図書室の隅の回転書架に入っていることが多かった。あれは現在のライトノベルにあたる読まれ方をされていたのかな。ちょっと違う気もするが。


少々日が経っちゃいましたが、ひさしぶりに宣伝。
 
 
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『東京時間旅行 荷風!』(日本文芸社)の最新号が発売中です。今号の特集は、東大・慶応・早稲田を中心とする、東京の大学町。
 
 
私の連載「建物探訪」 は、今回は巻頭でして、東京大学本郷キャンバスの戦前建築を紹介しています。取材のとき、腰が痛くて痛くて。

そうそう、実は表紙の写真もわたくしの撮影であります。書店で見かけましたら、ぜひお求めください。
 
 

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2010/12/18

ネタバレ 『宇宙戦艦ヤマト』

 
緒方直人がですね、黒木メイサに告白するんですわ。もう直球勝負。

そしたら黒木嬢に(なんだか昔のAVの人みたいだ)、「わたしは木村君のほうが」 と言われてしまい、あえなく轟沈。傷心の緒方君、ガミラスの攻撃を受けたときに、ヤケッパチになって戦闘機で出撃し、そのまま消息不明になってしまいます。

しばらくして、ヤマトの進路に壊れて漂流するガミラス艦が。なんと、艦内には緒方が捕虜として乗っているではありませんか。
奇跡的な生還に喜ぶ、木村をはじめとする乗員たち。しかし、しばらくして艦内では不審な事故が次々と発生します。そしてきわめつけの大事件が。技術主任(だったかな)柳葉敏郎が、シャワー室で撲殺されているのが発見されたのである。うーん、撲殺。

傷口から、鉄パイプ状の鈍器で殴られていることが判明。山崎艦長は緒方の帰艦後の動きに不審を抱き、サイボーグに改造されたガミラスのスパイであることを見抜く。

正体を明かした緒方に対して(スチールの腕が凶器だったんです)、木村は涙を流しながらレーザー銃でメッタ撃ち。ケシ炭になるまで撃ちまくりますが、緒方は発覚寸前に飲料水(たぶん)に毒を入れており、百数十人の乗組員をあの世に送ってしまったのでした。ひどいなあ。

イスカンダルに近づいたヤマトに乗っているのは、もはや数人という惨憺たる状況です。
(よく艦を動かせると思う)

イスカンダル星とガミラス星は双子の惑星でした(このへんはアニメも同じだったかな)。接近するヤマトに、スターシアからメッセージが届く。

スターシアって、イスカンダル人じゃなくて、コンピュータなのでした。

その昔、イスカンダル人は巨大コンピュータ・スターシアを完成させ、自分たちの文明のすべてを管理運営させていたんです。このコンピューターが駄目になるとたいへん困るので、まず第一に「自分の身を守る」 ようにプログラミングするんですな。そしたらスターシアは、おのれを守る兵士たちを次々と作り上げていきます。仮想生命体という概念らしく、「イメージ・ライフ」という説明があります。これがガミラス人であり、デスラーなんです。
 このやり方に危険を感じたイスカンダルの人々は、スターシアのプログラムを改変しようとします。するとガミラスの軍団に攻撃され、あっという間に全滅。
 
イスカンダルには放射能除去装置などという都合のいい機械はなく、スターシアに放射能の環境下で生きる人体改造の方法を教えてもらいます。なかなか過酷というか熾烈というか。
(考えてみれば、除去装置があるなら、最初に地球の近くに来た女の人が持ってきてくれたらよかったんだよね)

スターシアには、自分を守るガミラスを決して倒すことができない。事態を悟った山崎艦長は、ヤマトのすべてのパワーを使ってイスカンダルを吹き飛ばすことを決意するのです。

「お供します、お父さん…」という堤真一とともに(堤はキャプテン・ハーロックで、木村の実の兄ではなく、艦長の実の息子という凄い設定)、艦長のあやつるヤマトはイスカンダルに体当たりします。スターシアが破壊されれば、イメージライフであるデスラーもガミラス軍もすべて消滅するというわけ。

堤真一の艦に乗せられたキムタクとメイサは、2人で地球への帰路につきます。めでたしめでたし。


大変失礼いたしました。上映中の『ヤマト』 とは全然関係ない内容でした。今回の映画化では、スターシアやデスラー役の役者が出てこないそうなので、この古いストーリーを久しぶりに思い出して、今回の実写版のキャストで説明してみました。

この内容が記憶にある人は、まあ40代半ばすぎかなあ。

 
次回に続きます。
 
 
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2010/11/29

蝗身重く横たわる


試験も原稿もまったく進まず。頭も手も全然動かないので笑ってしまう。

 
現実逃避にはしり、amazonで創元推理文庫の『ヴァリス』 と、ハヤカワの『高い城の男』『ユービック』 を買った。ひととおり読んだら、ちと元気になるかもしれないという淡い期待。
実は、『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』 がいちばん読みたいんだけど、あれは今以上に駄目駄目になりそうだからパス。『暗闇のスキャナー』 もやはり気になるが、早川版は訳と表紙が変わっているうえ、内容的にも今は絶対に読めないから、やはりパス。『聖なる侵入』 はどうしようかとか、考え始めるときりがない。

むかし全部持ってたんだけどね、ディックの邦訳はすべて買ったし、そもそも早川と創元とサンリオ文庫で、1500冊ほどのSFを本棚に並べていた。あまりに邪魔なので、結婚前にすべて捨てたのだ。

原稿が上がったころに配送されてくるんだろうが、そのころにはおそらく読む気は失せているのである。馬鹿らしい話であります。

 
 
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2010/08/04

ツイットもわからん

 
ツイッターを始めました。

実は以前からアカウントは取ってたんだけど、なんだかよく分からなかったのでそのまま放置しておりました。一昨日からギックリ腰で寝込んでいるので、暇つぶしに初めてつぶやいてみましたが、やっぱりよく分からない。うーん。

 
久しぶりに宣伝。

『東京時間旅行 荷風!』(日本文芸社) 最新号が発売になりました。
 
 
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今号の特集は江戸四宿で、江戸の入口にあたる内藤新宿・品川宿・板橋宿・千住宿の過去と現在を取り上げています。私の連載では千住界隈を歩き、北千住から南千住にかけての古い建物を探訪しました。今回は巻頭なんですわ。

南千住は母の故郷でして、叔父叔母や知人が多く住んでいることもあり、ずいぶんと楽しい取材でした。表紙をめくった1ページ目の千住大橋俯瞰写真は、叔父夫婦の住んでいる汐入の高層住宅から撮影したものです。なかなか面白いものが撮れましたよ。

 
南千住には隅田川駅というJRの貨物駅があって、その昔、旧日光街道(コツ通り)を横切る踏切がありました。通称・開かずの踏切。ラッシュ時の往来で開かない踏み切りは多いですが、ここは踏切の上を列車が行ったり来たりして、貨車の入替作業をやってたんです。そりゃを開かんわな。
今は立体交差になってしまっているんだけど、子どもの頃は遊びに行くたびに、ごっとんごっとんと行き来する貨物列車を眺めていたもんです。 

当時の思い出も書いたんですが、やっぱり写真が欲しい。押入れの天袋に死蔵されているプリントとネガをひっくり返し、やっとのことで数枚の写真を発掘、中1のときに撮影した踏切の風景を誌面で紹介しました。こういう稼業をしていると、何がどこで役立つかわかりません。

 
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これは使わなかった写真。網目のプリントが懐かしいや。
このDD13という一つ目のディーゼル機関車は、昔はあちこちの操車場で見かけました。
 
 
『東京時間旅行 荷風!』(日本文芸社)、定価880円です。書店で見かけましたら、ぜひお求めください。
 
 

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2010/02/17

追悼・浅倉久志さん

 
 
http://www.yomiuri.co.jp/national/obit/news/20100216-OYT1T00788.htm
浅倉久志氏死去 翻訳家   (読売新聞)


フィリップ.K.ディックとカート・ヴォネガットを追いかけていた人は、足を向けて眠れないお方。79歳だったのか。このあいだ小隅黎(柴野拓美)さんも亡くなっちゃったし、SF黎明期を知る大御所が去っていきますね。

初めて早川書房のSFを手にしたのが小学校6年のころで、この人が翻訳したマイケル・クライトンの『アンドロメダ病原体』 だった。映画にもなったが、終盤にクライトンの大好きな (というか、この人の作品はそればっかりなような気が) システムの暴走という題材も登場、ハードSFながら小学生にも分かりやすい内容だった。
 
わたくしはハヤカワSFの「青背」に親しんだ世代です。20代前半の頃に、当時1000冊を越えたばかりのハヤカワSF文庫を、すべて購入・読破することを決意し、絶版本は毎年春になると大量に購入することにしていました。
 
なんで春かと申しますと、そのころ八王子にある中央大学の入試会場で案内のバイトをしていたんですが、大学前の野猿街道にプレハブの古書店があったんですね。ここがハヤカワの文庫本が異常に揃ってまして、バイトの休憩時間に訪れるのが楽しみだったのです。家族経営っぽい小さな店でしたが、これがのちのブックスいとうになりました。ブックオフと並び、関東では有名な新古書店のチェーンであります。
(HPで会社概要を見ると、本社の位置が中大の南の野猿街道ぞいで、まさに私が行っていた店の場所でした。私見ですが、このチェーンはブックオフよりも本に愛情があるような気がする)

結局、全巻制覇のもくろみは700冊ほどで挫折しますが(それでもものすごい場所をとった。サンリオの文庫も結構あったので)、引越し・結婚と生活が変化するなか、処分せずに最後まで残ったのがディックとヴォネガットだった。

ディックの『ユービック』 を初めて読んだときの衝撃は忘れられない。『高い城の男』 も『アンドロイドは…』 ももちろん好きだが、マイベストは『ユービック』 なのである(あの作品、珍しく話が破綻していない)。 ディック作品については、のちにサンリオの作品を復刻した東京創元社の文庫も揃えたけれど、浅倉節に馴れていたものだから、いまひとつ乗りきれませんでした。

 
ありがとう、浅倉久志さん。ご冥福をお祈りします。
 
 
 

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2010/01/30

夢野久作の思い出

 
昨日の最後に『ドグラ・マグラ』 についてちょっと触れました。この小説をめぐる、私の好きなエピソードです。横溝正史と小林信彦の対談で、『横溝正史読本』(小林信彦編・角川文庫)より。

 
横溝  (前略)ぼくは「新青年」(注…戦前の探偵小説雑誌) やってる時代は非常に短いんだけれど、夢野久作に短編を書いてもらったことがあるの。そうしたら、どういう機会だか忘れたが、はがきをくれましてね。文句をはっきり憶えているが、「近頃は講談しか読まずなりぬ。われもこれまでの男なりき」 っていうの。これどういう意味かな、と思っていたの。そのはがきをもらってから、まもなくぼくは喀血して信州へ言った。そうしたら『ドグラ・マグラ』 が送られて来たじゃない。「これまでの男」 じゃなかったわけよ。(笑)

(注… 横溝先生、小林氏の対談に備えて再読したそうです)

横溝  真夜中に気が変になっちゃってねえ。飲んでも飲んでも寝られないじゃない。もう死ぬところだったよ。ガラス割っちゃってねえ。

(書庫入り口のガラス扉に激突したという。さいわいケガはなし)

横溝  命拾いしたよ。七草の晩だよ。

小林  それは大変でしたねえ。

横溝夫人  それで、手ぬぐいを引っ張り出すんですよ。ご不浄の手拭いを、おれ、これで首吊って死のうと思ったんだって言うんですよ。わたしはすっかり寝られなくなっちゃいました。

横溝  『ドグラ・マグラ』 読んで、頭が変になっちゃったらしいんだね。だから、おれはまだ相当感受性が強いなと思って、安心したよ。(笑)


 
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夢野久作。
 
 
 
私は夢野久作の短編が好きでして、『少女地獄』 もいいけれど、『死後の恋』『瓶詰の地獄』 あたりが傑作だと思います。『人間レコード』 という変な作品もあって、これは社会主義者の暗躍を暴くという戦前の娯楽小説にありがちな題材ながら、アイデアはサイバーパンクの(これも古いなあ) SFそのものである。

『瓶詰の地獄』 は、高校時代に角川文庫版で初めて読み感銘を受けた。角川版の夢野作品は、どれも米倉斉加年の妖しげな表紙絵で素晴らしい。みな欲しかったが、すでにほとんどが絶版になっていて、しかたがないので地元の図書館で借りている。

 
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米倉斉加年画。
 
 
大学に入った年だったか、この『瓶詰の地獄』と、もう一冊の夢野作品を図書館で借り、バッグに放り込んで東北へ旅に出た。晩秋の夕暮れどき、橙色の白熱灯が淡く光る客車列車の片隅で、ひとりページを繰り悦に入っておったのです。 
 
ところが降りるときに、一冊車内に置き忘れてしまったのですな。
 
帰宅後に図書館に電話して詫び、どうしたらいいか尋ねたら、代替本を購入してほしいという。絶版になっていることをおそるおそる話すと、また連絡するとのこと。いったいどう責任をとればいいのだろう。
 
数日後、電話があった。

 
 
「夢野久作の『狂人は笑う』 を紛失されたヘロオカさんですね」

「はい」

「集英社文庫から出ている『丘の家のミッキー』 の2巻を買って、もってきてください」


 
 
 
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本屋から図書館に直行するのも癪なので公園で読んだ。
2巻からではわけがわからず、結局図書館で借りて
その日のうちに全巻(当時)を読破した。
読み出したら止まらない、本読みの悲哀。

あー、まあ、面白かったです。
代りの本を買わせるというシステム、まだやっているのだろうか。
 
 

 


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2008/08/23

鉄道の原稿を書いてみました

 
夜汽車の話を書いたので、鉄道がらみの話をもう少し。

半年ほど前のこと、先輩ライターの白川淳氏から原稿執筆の依頼があった。白川さんは鉄道系のライター、かつ研究者として著名な人物で、ベストセラーとなった労作『全国保存鉄道』(JTBパブリッシング) シリーズは、日本の歴史的鉄道車両のデータベースとして高い評価を受けている。
 
実はこの人は高校の先輩でして、私をモノ書きの道に引っぱり込んだ、大変ありがたいお方でもあります。家は近所なのだが、電話をかけてもたいてい海外に出ているか、締め切りに追われていてお会いできない。たまに連絡をくれるときはこっちが忙しかったりして、年に数回会うか会わないかという関係が十数年続いている。
ときおり彼の魔窟、もとい仕事場を訪問することもあったが、これがまた尋常ではない量の資料に埋もれた怪しの屋敷で、お客の居場所がないのである。さらに彼がどこからか面白い写真やら本やらを次々と取り出してくるものだから、たいてい収拾がつかなくなり、私は恐れをなして早々に退散するのが常であった。

さて、原稿を頼まれたのはやはり鉄道の本で、全国で活躍している古い車両や保存施設を紹介する書籍だった。「保存鉄道」 シリーズの最新版にあたるのでしょうね。打ち合わせの上、20ページほど担当させてもらいました。
 
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『全国歴史保存鉄道』(JTBキャンブックス)
 
書店にありましたらぜひお求めください。いい本です。


今回お引き受けしたのは、紹介する車両や施設のほとんどが、むかし旅をしていたときに乗ったり訪問したことのあるものだったからなのです。もう懐かしくて、自分の連載よりよっぽど筆が進んでしまった。押入れの天袋につめこんでいた鉄道関係の資料が、はじめて仕事の役に立ったのも収穫でした。かれこれ20年近く死蔵されたままで、そろそろ処分しようかと思っていたのだ。
 
楽しく仕事をさせてもらいましたが、ちょっと複雑な気分なんだよね。旅に出るとどこでも見ることのできた機関車や、いつも当たり前のように乗っていた電車やディーゼルカーが、日本各地で保存されたり、文化財になっていたりするのですよ。自分にとってはそんなに昔の話じゃないんだけどなあ。

鉄道ブームというけれど、最近のファンの人は、わたしたちが若い頃に当たり前だった旅の幻影を追っている人も多いようで、なんだか少し気の毒な気もします。
 


 

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2008/01/20

ねないこだれだ



テレビを見ていたら、稲垣吾郎と小雪主演のコメディドラマをやっていた。けっこう芸達者な人々が出演しているのだが、いまひとつストーリーがはじけないのが残念。脚本が弱いのね。
小雪という人はどうにもポジションのはっきりしない女優さんで、以前からコメディエンヌとして使ったらいいと思っていたのだけれど、、初回の今日はまだまだ覚悟が決まっていない様子が見てとれました。この人、なんだか誇り高そうなんだもの。冒頭に夫婦喧嘩で鼻血を出すベタなシーンがありまして、まあ馬鹿馬鹿しいと言えば馬鹿馬鹿しいんだけど、ああいうところではおかしな顔をするのがお約束でしょう。

 
週刊文春で、宮藤官九郎が子育て日記を連載している。去年の暮だったか、せなけいこの絵本『ねないこだれた』(福音館書店) に衝撃をうけた話を書いていた。寝ない子供のところにおばけがやってきて、最後には連れて行かれてしまうシュールなストーリーである。
私はこの作家の作品は、実際に幼児のときではなく、小学生の頃に図書館で読んだのだけれど、どれもこれも子供を単純に楽しませるようなお話とは異なっていて驚かされたものである。代表作のひとつ『いやだいやだ』 にしても、突き放すようなラストは小さい子どもにとってはショッキングなものだと思われる。わがままを言うと、おかあさんもケーキもぬいぐるみのくまちゃんも、怖い顔をしてどこかへ行ってしまうのだ。

『ねないこだれだ』 ですが、そのあまりの内容ゆえ、アマゾンのレビューで子どもの頃のトラウマを語る人がいたりして面白いです。未読の方はぜひお読みになってください。
 
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2007/04/26

ダーク・ピットシリーズ

 
久しぶりに自転車通勤である。午前中4時間授業をこなし、昼食抜きで次の学校へ移動して、さらに2時間喋り倒す。6時間連続はさすがにくたびれます。独身の頃は、その後さらに定時制や学習塾に直行していたんだけどね。
 
帰路、ぼんやり裏道を走っていたら、前から小学生男子のあやつる自転車がこちらに突っ込んできた。急ブレーキで難を逃れたが、危うく正面衝突するところで冷や汗をかいた。
この坊主、片手に何か持っていて、そちらにすっかり気が取られていた様子である。どうせ携帯電話だろうとその手元を見ると、なぜか銀紙に包んだ石焼芋。脱力し怒る気も失せる。

 
 
クライブ・カッスラー『極東細菌テロを爆砕せよ』(新潮文庫)上下巻を読了。凋落著しいダーク・ピットシリーズの最新作である。新刊で購入した妹が途中で投げ出して母に譲り、母がやはり途中で挫折して私にくれたという作品。
 
このシリーズは30年以上続いている冒険小説で、アメリカの海洋機関に所属する主人公、ダーク・ピットが、さまざまな陰謀や犯罪に立ち向かいながら、同時に歴史上の謎や事件を解決してゆくという趣向のストーリーである。長期シリーズの常で、主人公は老いストーリーはマンネリ化して、往年の生きのよさは見る影もない。原書まで買って再読した傑作、『タイタニックを引揚げろ』 から何作かは実に面白かったのだが。
 
数年前にマシュ-・マコノヒーとペネロペ・クルス主演で一本映画化されていて(注)、こちらも先日DVDで鑑賞した。B級活劇としてはまあまあの出来だったが、元来このシリーズ自体あまりにも映画的なストーリーゆえ、映像化しても新鮮味がないのが致命的であった。派手なアクションシーンもおおかた予想がついてしまうのである。

それにしても、数年前に読んだ『マンハッタンを死守せよ』 のラストシーンには衝撃を受けた。番場の忠太郎かと思ったよ。
 
 
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注…  『サハラ 死の砂漠を脱出せよ』(2005)。ちなみに1980年、出世作の『タイタニックを引き揚げろ』 が映画化されたが、そのあまりの不出来に原作者が激怒し、以後作品映画化のオファーを断り続けていたらしい。
 
 
 
 

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2007/02/16

求む男子、苦難の旅

 
近年、公立学校の図書費というのはどこも惨憺たる状況で、新刊図書の購入に苦労している。
私の勤めているいくつかの学校でも、とてつもなく古い本が書架に並んでいる図書室が多い。これは生徒には気の毒だが、実は本好きとしては意外と面白かったりするのである。

都下K市の、ある中学校。図書室で生徒に作業をさせながら書架を眺めていたら、冒険譚の名作が妙に充実しているのを発見した。フリッチョフ・ナンセンの『極北』(福音館日曜日文庫)、A.G.ホール『ナンセン伝』(岩波少年文庫)、モーリス・エルゾーグ『アンナプルナ登頂』(同) から始まって、トール・ハイエルダール『コンチキ号漂流記』(あかね書房)、70年代に主婦と生活社から刊行されていた、クストー海洋冒険シリーズといった古典的名作が数多く揃っている。ル・フェーブルの『中央アジア自動車横断』(白水社) がなにげなく並んでいたのには驚いた(注)
 
日本勢も定番の『太平洋ひとりぼっち』(堀江謙一)『極北に駆ける』(植村直己)『太平洋漂流実験50日』(斎藤実)、南極航海記(木崎甲子郎)などが並び、珍しいところでは、『松浪先生 アフガン秘境を行く』(大日本図書) なんてのもありました。本会議水ぶっかけ事件で話題になった松浪健四郎の若き日のアジア旅行記で、表紙のタイトル「松浪先生」 のところにちゃんと「ちょんまげせんせい」 とルビがふってある。ジュニア向けだが、意外にも(失礼) 好感のもてる内容であった。

文庫の棚に目を移すと、未読だったアルフレッド・ランシング『エンデュアランス号漂流』(新潮文庫) があるのを発見。たまらず借りてしまう。今世紀初頭、初の南極大陸横断に挑むが、途中で遭難することになったイギリス人探検家、アーネスト・シャクルトンの苦難の記録である。氷の海で17ヶ月におよぶ漂流を生き延び、乗組員28人はひとりも失われることなく生還するのだ。
あまりの面白さにあっという間に読了した。隊員たちのサバイバルストーリーも魅力的だったが、やはりカリスマ性と不屈の意思をもつシャクルトンという人物に心を惹かれた。
彼がロンドンの新聞に掲載したという隊員の募集広告はあまりにも有名である。このコピーを見て、五千人以上の志願者が殺到したという。


MEN WANTED for Hazardous Journey. Small wages, bitter cold, long months of complete darkness,constant danger, safe return doubtful. Honor and recognition in case of success.
――― Ernest Shackleton.

「求む男子。至難の旅。僅かな報酬。極寒。暗黒の長い日々。絶えざる危険。生還の保証なし。成功の暁には名誉と賞賛を得る」


本書の邦訳は遅く、1998年である。翻訳のきっかけになったのが、カムチャッカで亡くなった写真家・星野道夫氏の紹介であることをあとがきで知った。一読をおすすめします。

End

 
 
注… 1920年代から30年代にかけて実現した、特殊装備を備えた自動車による初めての大陸横断探検の記録。中央アジアではヒマラヤ越えにも挑んでいる。使用された車はフランスの自動車メーカー・シトロエン社のもので、そもそもこの探検自体、宣伝上手だった同社の社長、アンドレ・シトロエンによる発案である。学術探検でもあるというところがウリで、のちにアフリカ大陸への遠征もおこなっている。それぞれのキャラバンを「黄色い艦隊」「黒い艦隊」と名づけてしまうところが、まあ時代ですな。
 
古いシトロエンに乗っている物好きが身近にいたら、この話題を持ち出さないほうが無難。長話になる恐れがある。 
 

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