2013/09/27

『そして父になる』 を観に行った

きのう見た映画があまりにも論評不能で、何かモヤモヤするもんだから、今日も映画館に行ってしまった。
 
 
 
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先行公開だそうです。気になっていた作品なので、できるだけ事前情報は入れないようにしてたんだけど、ネットで試写会を観た人の感想をちらりと見てしまったんですね。その方は、

「ものたりない」「もっと泣けるかと思った」

というご意見でした。手取り足取り説明してくれる橋田壽賀子のドラマみたいな作品を映画館で見たくないので、悪いけどこりゃ面白いのかも、と逆に期待が高まりました。
 
500席ぐらいあるスクリーンで、1割ほどの入り。平日午前の回はこんなもんですかね。年配の客ばかりでした。カンヌの映像を上映直前に流すのはどうかなあ。

 
で、感想ですが。(ネタばれしてません)


1 福山雅治がいい  

 …本当によかった。適役です。周りが上手いのは分っているので、どんなもんかと思っていましたが、うまく演じてました。感心。

2 抑えた尾野真千子がいい

 …福山君を主役に立てているせいか、かなり抑制した役どころ。この人に吼えさせるとオノマチ・オンステージになってしまうので、これでいいんでしょう。じゃあ彼女じゃなくてもいいのでは、という意見も出そうですが。

3 雰囲気女優、真木よう子がいい

 …こう言っちゃ何だが、カンヌでひとり堂々と金髪で登場しちゃう鈍感さというか、粗雑さがこの人の持ち味なんだな。前にもこの人について書きましたが(あ、龍馬伝だったか)、得がたい雰囲気をもつ女優です。こういう役者がいなければいけません。
リリー・フランキーとの夫婦役は実にいい味を出していました。どちらも難しい役どころですが、グロテスクに戯画化しすぎていなかったのがいい。

4 ちゃんと芝居してる樹木希林がいい

 …つまんない作品だと手を抜く人なので。


掛け値なしの良作でした。ただ、見る人の年齢や環境、育ち方によって、ずいぶんと感想が異なるのではなのではないだろうか。6歳児の親としては、考えさせられるシーンが多かったですね。


鼻をぐずつかせながらロビーに出ると、でかいモニターでヒュー・ジャックマンが『ニポンノミナサン、コンニチワ』 と挨拶している。うーん、好漢。
 

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2013/09/26

なに演っても温厚そうなヒュー・ジャックマンさん

午前中から吉祥寺をぶらぶらしてたんですが、ちょうどガード脇の映画館で上映が始まるところだったんで、内容も確かめずにお金を払って客席に入ると、お客は3人。
ヒュー・ジャックマンが芝増上寺や新幹線の屋根のでヤクザと延々戦うへんな映画を缶ビール片手に鑑賞しました。なんだありゃ。熊谷美由紀似の女の子が頑張ってましたけどね。
(以下、少々ネタばれあります)

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X-Menシリーズのキモは、イアン・マッケラン演じるマグニートーがユダヤ人で、ミュータントとユダヤ人の迫害を重ね合わせてるところなんですが、1作目の冒頭が強制収容所シーンだったのには驚きました、娯楽映画でこういう使い方をするのが凄いなあと思ったんですね。今作も冒頭だけは興味深かった(ものすごく変だけど)。8月9日の長崎をこういうふうに使った娯楽映画は始めてだろうなあ。それにしても、不死の人相手じゃ、いくら真田広之だって辛かろう。

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2010/09/08

寺田屋騒動

 
またまたNHKの『龍馬伝』 の話なんですがね。
 

全国の紳士諸兄同様、わたくしもまた、「階段を駆け上がり、障子をバーンと開けて龍馬を驚かす全裸の真木よう子」  ですとか、「いろんなとこをまろび出しながら、捕方を蹴散らして伏見街道を爆走する真木よう子」  などを妄想しておりましたので、今回の演出はちょっと残念であります。
こう書くと、真木よう子の裸に妙にこだわりがあるように聞こえるかもしれませんが、まあ実際その通りなので、弁解のしようがございません。すみません。
 
でも、裸のお龍はもう様式美のようなものなので、ちょっと期待しちゃったよ。

ついでに言うと、今回はセリフで視聴者を感動させようとするのが興ざめでした。筧利夫の三吉慎蔵も、槍さばき(竹竿だけど)の所作がよくて感心したのだけれど、龍馬との会話が長くてクサくて。

 
このドラマもあと3ヶ月ほどで終わります。ワイル・ウエフ号の池内蔵太のエピソードとか、いろは丸事件とかは、ちゃんとやるんですかね。

「いろいろなことが、あったがじゃあ!」

という弥太郎のセリフですべてを終わらせてしまいそうな気がして、なんだか心配であります。

 
 

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2010/09/01

A romantic fool


大容量のハードディスク・レコーダーでCATVを録画するようになってから、再見の作品のほとんどは、早送り鑑賞ばかりになってしまった。子供が小さくてゆっくりと楽しむ時間がないせいもあるんだけど、実際、集中力も落ちました。

自動録画されていた作品で、久しぶりにじっくり観てしまったのがこれ。


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『鷲は舞いおりた』(1976)
 
 
チャーチル暗殺を目的に、イギリスに潜入するドイツ空挺部隊の話。原作は1970年代を代表する冒険小説の傑作です。

ジャック・ヒギンズの原作が本当に好きなんですよ。この映画、小説を読んでいると、実はかなり物足りない出来ではあるんですが、俳優につられていつも最後まで観てしまうのです。

ドナルド・サザーランドが演じるIRAの活動家・リーアム・デヴリンがまず良くて(原作では小男の設定なんですが)、 ロバート・デュバルの誇り高いドイツ軍人がまた素晴らしい。 しかしロバート・デュバルって人は、年をとるにしたがってどんどん格好よくなっておりますな。

ヒムラーに「非常に頭が良くて、勇気があって、冷静で、卓越した軍人 - そして、ロマンテックな愚か者だ」 と評される、主人公のクルト・シュタイナ中佐は、冒険小説史上に残る名キャラクターです。残念ながら、このシュタイナ役のマイケル・ケインが、ミスキャストといえばミスキャストなんだよね。ドナルド・プレザンスがヒムラーを「上品に」 怪演してるのも楽しい。


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冒険小説はほとんど捨てたが、この作品はまだとってあった。
早川版は故・菊地光の名訳。

 
シュタイナの副官のノイマン中尉は「リタ」でも「リッター」でもなく、「リッタァ」 なんだな。リッタァ・ノイマン。思い出深い菊池節。

菊地さんの翻訳は、ディック・フランシスやロバート・パーカーの諸作品で親しんだ人も多いと思います。
 
 
ヒギンズやバグリィなど、膨大な数の海外作品が翻訳されていた80年代から90年代初頭は、本当に楽しかったですね。
 
 

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2010/08/15

新旧ベストキッド


ディズニー・チャンネルで『ベストキッド』(1984)を放送していたので再見。

 
移民のプアホワイトと、日系人が主役の大ヒット作である。各所で垣間見える珍妙なオリエンタリズムとか、肝心の「カラテ」が、中国拳法だか沖縄空手かよく分からなかったりとか(師匠のミヤギは一応沖縄人らしいが)、突っ込みどころ満載の映画なのだけれど、よくできているなあと感心する点も多い。

パット・モリタ演じるミヤギが、マンザナーの日系人収容所で妻を失った、日系2世部隊の英雄という設定が何より心を打つ。妻を想い、軍服で酔いつぶれてベッドに横たわる彼の腕には、米陸軍442部隊の徽章(松明をかかげた自由の女神の右腕をデザインしたもの)がはっきりと見えるのだ。
 
米国社会への忠誠心を疑われたために日本軍との戦いを認められず、ヨーロッパ戦線へ送られた442部隊の奮戦は、あまりにも有名である。収容所に入れられた妻子や家族の名誉のために、彼らは多くの犠牲者を出して友軍を救出し、ユダヤ人の収容所を解放している。この部隊は、アメリカ軍の中で最も多くの勲章を得ているのである。しかし、英雄として帰国した彼らを待ち受けていたのは、変わらぬ差別だった。

収容所に入れられて財産を失った12万の日系アメリカ人は、ゼロからのスタートを余儀なくされた。日系人兵士も同様で、アメリカ人が大量消費社会を謳歌しはじめた1950年代の前半、彼らは馬車馬のように働いて戦後の地位を築いていった。老いたミヤギがレストアしてコレクションしている車が、すべて50年代前半のアメ車なのが泣かせるじゃありませんか。

レーガン大統領の下、日系アメリカ人補償法が制定されたのが1988年。この作品は日系人への名誉回復が社会問題になっていた頃の映画でもある。何度も言うけれど、こういうテーマを、娯楽作品の脚本ににサラリともぐりこませるのが、ハリウッド映画の強みなのだな。

 
ジャッキー・チェンとジェイデン・スミス主演のリメイク版『ベストキッド』 が公開され、ヒットしているようですね。未見ですが、スクリーンで見られる拳法は正確なものだろうし、師弟モノのカンフー映画としては(ジャッキーが師匠というのがまた感慨深い)、恐らく最良の作品に仕上がっているだろうと思います。

しかし、旧作のあのシーンは、日本人としては忘れがたいなあ。
 
 

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2010/07/20

ゲゲゲの話と、『龍馬伝』補遺

 
NHKドラマの『ゲゲゲの女房』が好評なようで。

熱狂的な水木しげるの自伝ファンとしては見逃せないドラマでしたが、主演男優にどうにも違和感を感じ、ほとんど鑑賞しておりませんでした。地獄のニューギニア戦線からの帰還者には見えないし、なんか裏でたくらんでるみたいな感じの人なんだもの。松下奈緒はでかくてキュートですが。

何年か前、NHKスペシャルで、『鬼太郎が見た玉砕~水木しげるの戦争~』 というドラマをやりまして、そのときは水木さんの役を香川照之が怪演し(またかよ)、なかなか面白かった。ちなみに奥さんは田畑智子でした。


『龍馬伝』その後。

高杉役の伊勢谷、こりゃ顔演技の人だなあ。 
 

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2010/07/18

『龍馬伝』雑感

 
前半が終わったようですが、まだ脱落せず毎週楽しく鑑賞しております。ここで登場人物の感想を少々。

 
山内容堂(近藤正臣)

実際の山内豊信とあまりに年が違うのだけれど、すっかり見慣れてしまいました。
しかし土佐藩は大殿様と後藤しかおらんのか。乾退助あたりを出しとかないでいいのかね。
以前、品川宿の取材をしたときに、容堂公のお墓の撮影をしたんだけど、周囲はものすごく蚊が多く、逃げ回って階段を転げ落ちそうになりました。変なところにあるの。

後藤象二郎(青木崇高)

後藤という人物は、当人も息子も孫もどこか破綻した人物だったのは確かですが、あれじゃ狂人だよ。

岩崎弥太郎(香川照之)

このところ小綺麗になってしまいましたね。長崎に行ってからの銭勘定役に期待。
このドラマの登場人物の大半は維新前後に死んでしまうわけで、この人の家族だけはなんだかのんびり見ていられる。
ちなみに、岩崎家にいる弥太郎の弟・弥之助が、のちにクレイジー後藤の娘を嫁にします。ほんとにもう、公私ともにズブズブの関係なんですな。

弥太郎の妻(マイコ)

初登場のときは、オランダお稲が出てきたのかと思った。何だかリチャード・ギアにも見えるけど、可愛いらしいからいいや。
第一部・二部とも、冒頭で明治になってからの弥太郎が登場していますが、そのうちこの人が、鹿鳴館風の貴婦人姿で登場すると思います。

近藤勇(原田泰造)

初登場のシーンが良かった。私はバラエティは全然見ないので、役者で出てきても違和感なし。平井収二郎を演じた宮迫も頑張っていたけれど、原田泰造のほうが色気があって芝居向きである(この人は声もいい)。土方を演じている人もなかなかでした。

岡田以蔵(佐藤健)

土佐編が長かったもんだから、以蔵の拷問シーンの抱き石が毎週1メートル、2メートルと高くなっていくのを期待したんですが。
悪くはないんだが、何だかマンガかアニメのキャラクターみたいだったなあ。今回の出演で、この役者さんはものすごく得をしたと思うよ。

武市半平太(大森南朋)

大森南朋という人、ますます親父(麿赤兒)にそっくりになってきた。目を見開くともう同じ顔である。
しかし、牢屋に大殿様がやってきたあと、至福の表情になってしまったのにはいただけませんな。ああいう宗教的法悦みたいな中で死ぬんじゃ、例の壮絶な切腹をする意味がないではありませんか。

沢村惣之丞(要潤)

若手男優の中で、今回一番気に入っているのがこの人。ヅラ姿が不自然ではなく、面構えがいい。

お龍(真木よう子)

テレビや映画で10人以上の楢崎龍を見てきましたが、真木よう子は過去最高だと思います。毎回熱狂しています。人あたりが良かったり、健康そうなお龍なんて駄目だよ。
この女優さんのイライラと荒んだ感じが大好きなのだが、近年少々丸くなった気がする。妻に言わせると、お母さんになったからではないかという。なーるほど。
 
関係ありませんが、北乃きいという人からは、同じような匂いを感じます。

坂本龍馬(福山雅治)
健闘していて感心します。これからどのような性格設定になるのかな。


予告編に出てきた、ポール・ウェラーのような高杉晋作(伊勢谷友介)も楽しみ。
しかし、もうオリジナルストーリーをやっているヒマはないんじゃないだろうか。見ていて心配になってくる。
 
 

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2010/05/02

すくすく子育て


昨年末、外付けハードディスクに録画するタイプの地デジTVを購入した。最初に買った1.5TBのHDがどうも調子が悪いようで、80%も録画していないのにエラーが出る。画面がちょいちょいフリーズしてしまうのだ。
 
修理すると録画した番組が消えてしまう可能性が高い。とりあえず放置し、ハブを使ってもう一台、HDを並列でつなぐことにした。ハブも含め、いちいち電源をとらなければいけないので面倒だ。

配線を終えてTVをつけると、チャンネルがNHKの教育テレビになっていたらしく、いきなり「りょうこの手あそび」 が始まった。

これは『すくすく子育て』 という育児番組の1コーナーである。どうにも説明が難しいので、ご存じない方は動画でも検索してみてください。何か変なの。

途中で顔と手首から先だけが空中を浮遊して踊る不気味な場面もあって、悪いドラッグでもやっているような気分になる。おまけにこのコーナーは結構長く、踊りと歌が終わるようで終わらず、頭がクラクラするのである。私はりょうこの一連のパフォーマンスは暗黒舞踏の一種だと思っている。

 
『すくすく子育て』、司会は照英です。

 
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先日、レンタカーを借りて宮崎から鹿児島まで走った。激しい雷雨と強風の中、深夜の峠道を越えるのは実に神経を使う。時おり対向車が来ると、ライトの反射でまったく路面状態が分からなくなるのだ。
夜空が白みはじめた頃、やっと雨と風が弱まってきた。私は路肩にクルマを停め、ラジオをつけて目を閉じた。激しい疲労感。雑音に混じって、アナウンサーの声が聞こえてくる。

「おはようございます。きょうは朝から素敵なゲストをお迎えしております」

「おはようございます! 照英です」

 
私は静かにラジオのスイッチを切った。

 
翌日、宮崎空港でレンタカーを返却した。2日で400kmは走っただろうか。営業所の近くのガソリンスタンドで給油中、何気なくラジオのスイッチを入れた途端、男性の声が大音量で流れ出した。

 
「やあ! 照英です」

 
私は静かにラジオのスイッチを切った。

 
 

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2010/02/01

エンタテインメントの佳作でした

 
矢口史靖監督の『ハッピーフライト』 (2008) をテレビで放映していたので鑑賞。

以前から観たかったのだが、この監督の『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』 に大きな疑問を感じていたので、ちょっと躊躇していたのである。面白いネタをどうしてこういうふうに料理するのかな、と。
 
意外や、本作はしっかり作りこんだいい群像劇だった。決して大作ではないものの、コメディタッチの日本映画では珍しく、エンディングまでダレることなく楽しめた。

 
(以下、少々ネタバレあります。ご注意。)
 

以前の矢口監督であれば、笹野高史のカツラネタや正露丸ネタをもっと引っ張るか、グロテスクに誇張して笑わせようとしたと思うんですよ。絶対。この人の作品は、笑いが万事小粒なことと、話の本筋から外れていることが、物語のカタルシスを大きく損なっていたのである。今回は俳優たちの真っ当な演技で笑わせていて、ストーリー上でほとんど浮いている部分がない。全日空の全面協力ということで、予定調和の内容にしかできないことが、かえって成功した要因なのかもしれない。

空港見学の子供たちを案内するシークエンスで、分かりづらい地上クルーの仕事ぶりを観客に説明するくだりに感心した。ストーリーを停滞させず、うまく後半への伏線を張ることに成功している。日本映画はこういうところを手抜きするか、字幕で処理することが多いのだ。

女優陣はみな健闘しており、なかでもグランドスタッフを演じる田畑智子が抜群にいい。彼女の恋の行方をくどくど描かないのにも好感がもてた。何でもすべて描写すればいいわけではないのである。ただ、本当は整備クルーの上司と若手の人間関係を、最後に上手くまとめるのがエンタテインメントとしては王道なんだけどね。

しかし、ANAはハッピーフライトで、JALは『沈まぬ太陽』と『クライマーズハイ』 では、さすがにJAL関係者がちょっと気の毒な気もします。
 
 

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2010/01/29

今さらポニョポニョ

 
ふと思い立って、近所のレンタルショップで宮崎駿の『崖の上のポニョ』(2008) を借りてきたのです。

 
何だ、これは。
 

いや驚いた。恐るべき映画である。毀誉褒貶の激しい作品だとは聞いていたが、これほどのものだとは思わなかった。怪奇幻想映画の王道をゆく内容であり、全編に漂う死の匂いは只事ではない。
 
「主人公の少年や母親に感情移入できない」「登場人物の描き方が希薄」 といった感想があるようですが、これ、感情移入どころの騒ぎではありません。でてくる人物がどいつもこいつも死…、いや、2月にテレビで放送するそうなので、これ以上は控えますが、とにかく恐ろしい作品です。
そもそもポニョという生き物も不気味だが、出てくる老人たちもみなどこか変だし、しゃあしゃあとディズニー風味で描かれた重要なキャラクターがまた気味悪く、登場シーンも実に怖い。何が観音様だよ。

私は保守的なほうなのか、かりにも子供映画を標榜するのであれば、夢と現実の境界線はある程度はっきりさせたほうがいいと考えるのである。かのヴィクトリア期イギリスの異常人、チャールズ・ドジスン先生だって、アリスをうつし世に連れ帰っているんですよ。ところが本作で宮崎氏は、もう最後までおかまいなしで突っ走ります。落語の途端落ちのようなエンディングがまた評判が悪いようですが、あれはあれでいいの、絶対。悪い夢からはパッと目覚めたほうがいい。

いろいろと書きましたが、実はこの映画、気に入ったんです。そもそもこの内容の企画をしゃらっと通してしまうことは、今や宮崎御大以外には絶対に不可能である。人間、頂点を極めると、好きなことができていいですな。体の調子がいいときに(注)じっくり再見したいと思っています。
 
余談ですが、わが国ではファンタジーという言葉を非常に曖昧に、かつ安易に使っていることを以前から危惧しております。小説であれ映画であれ、このカテゴリーに分類すると何でもありになってしまうんだよね。まあ、それはそれでこういう怪作が誕生する土壌にはなったわけですが。
 
 
注… この映画は、体調が悪いと全然読み進められない『ドグラ・マグラ』 のような作品なのでした。ただ小説と違い、映像の場合は漠然と見続けることができるからタチが悪いのである。鑑賞後、深層意識の中のある種のスイッチが入ってしまう人もいるのではないだろうか。
 
 
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