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2011/03/26

原発の作業員 その1

 
今から10年ほど前のこと。私は知人に誘われて、都心で開かれたある昼食会に出かけた。さまざまな分野で活躍している人どうしの交流の場を設けるという趣旨の集まりらしかった。私は最初の本を出版した直後だったので、駆け出しのライターという肩書きで参加したのだ。

神田の街を見下ろす某レストランの宴会場には円卓が並び、正面には演台が置かれている。100人近い人が集まっていたのではないだろうか。主催者の挨拶の後に、何人かが順番に演台に上がり、喋りはじめた。
 
講演会形式の集まりだとは思っていなかったので、私はちょっと驚いた。朝食を食べていなかったので、目の前に置かれた折り詰めが気になったが、誰も手を出している人はいない。参加者の多くは目を輝かせて話を聞き、よく笑っている。

 
3人目の演者の話が始まった。30代後半のこの男性は、仕事の話が中心だったそれまでのスピーチとは異なり、自分の人生について延々と語り始めた。結婚と離婚、ギャンブルにのめりこんだ日々、借金苦と自殺を考えた日々など。

 
話が佳境に入ったとき、彼はぽつりと言ったのだな。


「こんなとき、友人が言ってくれたんです。BTコースを受けてみろよ、と」


場内に爆笑が起こった。笑っていない人は、私を含めて2割くらいだったろうか。 

もうお分かりの方も多いと思います。この居心地の悪い昼食会は、そのむかし流行った、自己啓発セミナーの集会だったのだ。

 
 
誘ってくれた知人の言動からそれは分かっていたので、特に驚きはなかった。正直、どんな集会なのだろう、どういう人々が集まるのだろうという好奇心が大きかったのである。逆に、ストレートな勧誘や折伏がないことに拍子抜けしたくらいである。

そして、この三人目の演者の人の仕事は、原発の下請け企業の社員だった。彼は聴衆を盛り上げようと、今度は自分の仕事についても話し始めた。


大きな拍手とともにスピーチが終わり、何か質問がある方はいらっしゃいませんか、と司会者が声をかけると、ひとりの初老の男性が手をあげた。それまでは質問をする人はいなかったが、この男性は話の途中からイライラと落ち着かず、憤懣やるかたないといった表情で、発言の場を待ち望んでいたのである。

そしてこの男性は私と同じく、明らかにこの場のメンバーではなかった。彼は言った。

 
「原子力発電所の安全性について、あなたはどう思いますか」
 
 
次回に続きます。

 
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