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2010/02/15

ある既視体験 その2

 
 
夢に出てきた工場の話の続きです。べつにミステリアスな方向へは話が進みませんので、そのへんを御期待の方は、少々退屈かもしれません。

20代後半から本格的に全国の近代建築を撮影するようになり、各地の作品を調べているうちに、この建物の正体が判明した。京都市東山区馬道通り、五条大橋からちょっと入ったところにあるこの工場は、「関西テーラー」 といい、歴史的建築物の愛好家にはかなり知られた物件である。もとは村井兄弟商会の施設で、明治33年(1900) にタバコ工場として建設された。日本で最も初期の民間工場建築である。タバコが専売制になったあとは専売公社の施設になり、さらに第2次大戦後に払下げられたらしい。
 
創業者・村井吉兵衛は、明治期の京都を代表する実業家のひとり。「天狗煙草」で有名な東京銀座の岩谷松平とともに、タバコの製造・販売で巨万の富を築いた人物で、昭和恐慌で破綻するまで、銀行経営・石炭・石油・生糸と、さまざまな分野に事業を広げていた。ちなみに村井と岩谷が製造販売していたタバコは、それぞれ意匠をこらしたデザインのパッケージを生み出し、カラー印刷のカードをオマケにつけたりして人気を博した。両社の印刷部門がのちに東洋印刷、凸版印刷のルーツになったという。
 
さて、前回ご紹介した写真は、3年ほど前、関西を取材したときに撮影したものです。初めて遭遇したときの印象に近づけようと思い、フォトショップで加工してみたんだけど、全然センスがないものだから、妙な仕上がりになっちゃった。

実際はこんな感じです。
 

Dsc_0113
 
 
周辺はごくごく普通の住宅地である。大きなビルも少なく、突然現れる赤レンガの大建築はかなりシュール。この写真では、近隣の家々が改築されてそこそこ新しくなっているけれど、昔は看板建築の商店と京町家ばかりだったので、ハイカラな工場との対比が鮮やかというか何というか、何とも不可思議な街並みであった。 
 
 
Dsc_0115
 
ちなみに行き止まりの正面ではなく、道は右にカーブしています。
工場の前の道は、馬車をつなぐために広くしたのだという。

 
Dsc_0130
 
馬をつないだ鉄輪。
 
 
古都というイメージばかりが先行しがちですが、京都は琵琶湖疏水や路面電車の建設、上下水道の整備など、明治以降は西欧文明をあいついで導入し、近代化をいち早く進めた都市でもあるんですね。市内には明治大正期の洋風建築が結構残ってまして、見学できるものとしては、村井吉兵衛関連では円山公園の長楽館(ものすごい豪華)、七条通りの村井銀行七条支店が有名です。延暦寺の比叡山会館にある大書院は、村井が東京赤坂に建てた豪邸(山王御殿) の一部を移築したものです。

京都は歴史的建築を上手に活用している施設が多く、この工場も一部を東山IVYと称して、宿泊施設に活用していた(蔦はからまっていなかったが)。いつか泊まってみたいと思っていたら、2009年の夏、あっという間に全棟が取り壊されてしまった。
 
うーん。実に残念。立派な記念碑もあったし、この建物は保存されると思ったんだけどなあ。

 
今度夢の中に出てきたら、怖さよりも懐かしさを感じてしまうかもしれません。
 
 
Dsc_0123


 

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