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2009/02/10

ストリームラインという悪夢 その2

 
ずいぶん間があいてしまいましたが、流線型のお話の続きです。

昭和40年代、『自動車の美学 流体力学によるデザインの採点』(光文社) という本が出版されていた。戦前戦後の自動車のデザインの変化を一般向けにわかりやすく解説した好著で、かつて一世を風靡したカッパブックスの1冊である。著者の樋口健治氏は機械工学の専門家。高齢ながら、現在も東京農工大の名誉教授として活躍されているらしい。
そういえば、ノベル以外のカッパの本って、あまり本屋で見なくなっちゃいましたね。多湖輝の『頭の体操』 シリーズあたりが世代的には懐かしいですが。
 
これは私の自動車趣味の原点となった本でありまして、小学生の頃に叔父の家から拝借して30年間借りっぱなしのまま、いつのまにか形見になってしまいました。

 
樋口先生によると、今世紀の車のデザインは、

マッチ箱型(T型フォードのような四角い車。馬車の形から脱していない)
カブト虫型(高速化をめざして背が低くなり流線型へ)
ボート型(いわゆる3ボックスタイプの登場。ステップ式のフェンダーがなくなる)
サカナ型(ボート型の流線型化。ファストバックスタイルの登場)
クサビ型(空気抵抗をさらに低くする試み)

の順に発展しているのだという。

いやもう、目からウロコが落ちましたね。工業デザインというものが、必然性があって変化していくということを初めて知った。「虚飾は滅びる」 という実例として、1950年代の過剰デコレーションのアメ車にもしっかり言及があり、口絵写真では見たことも聞いたこともないような古い車が紹介されていて、どれもこれも実に魅力的だった。
ちなみに、私がこの本に熱狂していたころ、世は空前のスーパーカーブームでありました。ランボルギーニ・カウンタックだ、フェラーリBBだ、と盛り上がる友人たちに、「1938年型のタルボ・ラーゴはすごいよ」 とか、「ダッジ・キングスウェイのテールフィンはバランスが悪くてさ」 などといっても、まったく理解されずに悲しい思いをしました。

さて、もっとも面白かったのが、1920年代から30年代のクルマの解説だった。エンジンの性能がアップしてスピードが上がると、空気抵抗の克服が課題になりはじめる。風洞実験から、先端部を丸く、後部をとがらせた形状がもっとも高速化に適しているという結論に達するのだ。この時期に研究をすすめた技術者の多くは航空機の設計者だった。
(前を丸く、後ろを伸ばしたデザインは、考えてみれば飛行船のスタイルそのものである)

無骨なマッチ箱型だった初期の自動車からカドがとれ、グリルは丸みを増し、後部のトランクも流れるような流麗なデザインとなっていく。流線型自動車の登場である。大空を飛翔する鳥には、水中を進むサカナには、余分なパーツというものがない。自然に学び、必要ない部分を削り取れば、もっとも機能的な形状に達するであろうという理屈だ。

ところが、この発想が妙な方向にひろがってゆくんですな。先進的なイメージだけがもてはやされ、建築物や家具・電気製品、はては女性の下着にまで流線型と称するものがあふれるのである。
実に馬鹿馬鹿しい話であるが、しかし一方で、この空前の大流行は、社会に危険な兆候をもたらすことになった。機能性、合理性を賞揚することがある種のスローガンになり、異物や他者を「科学的に」 排除する論理に直結していくのである。これを最も政治的に利用したのがナチスドイツであり、意外なことにアメリカでも、人種差別や優生学的選別といった点での理論的裏付けとなってゆくのである。
(もっとも、排他主義の点ではコミュニズムの教条性もまったく同様で、ナチスのバウハウス弾圧なんぞ、近親憎悪としか思えない)

さて、われらがEF55型機関車はどうだろう。こういっては何だが、従来からある方形の車体の先端に、流線型の部分をとってつけたようなデザインである。この時期は流線型の蒸気機関車や電車もいくつか製作されているけれど、後発国日本の限界なのか、どうも欧米の流行を表層的になぞっただけのように思える。まあ、それが面白いといえば面白いのだけれどね。
 
ただ、1930年代以降のドイツへの傾倒(当時の日本の雑誌でさかんに紹介されているドイツの姿は、どれもこれも来るべき世界、未来国家のようなイメージである)、そして大陸進出への流れを考えると、この流線型の時代の影響は多分にあるように思えるのだ。なぜなら、戦前の日本の鉄道車両の頂点を極めたのは、かの南満州鉄道の誇る巨大な流線型蒸気機関車、パシナ型なのだから。
 
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