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2007/06/27

年表をなぞると その2

 
昭和30年代の風俗を描いたヒット作、『ALWAYS 三丁目の夕日』 で、煙草屋のバアさん(もたいまさこ)が発売されたばかりのコカコーラを飲むシーンがあった。
 
「今度売り出したコカコーラというのさ」 とバアさんは自慢するのだけれど、堤真一演じる鈴木オートの社長はこの商品を知らず、「そんな醤油みたいなもん飲めるか」 と毒づくのである。

あれはどうも感心しなかった。戦後史の年表を見ると、たいていの資料に『昭和33年(1958)、コカコーラ販売開始』 の記述がある。確かに一般向きの販売が始まったのはこの年の4月だが、コカコーラ自体は昭和20年の敗戦直後から、進駐軍とともに日本に上陸しているのである(注)

 
注…  さらに言えば、戦前にも輸入品があり、一部の好事家には知られていたようだ。1910年代の初頭に発表された高村光太郎や芥川龍之介の作品の中にコカコーラが登場している。
コカコーラという飲料は、大戦中にアメリカ軍の転戦とともに世界へ広がったともいえる。米軍は敵地に上陸して橋頭堡を築くと、弾薬とともに大量の食糧を準備したが、そのなかには必ず木箱に入ったコーラのケースがあった。
 
 
昭和24年にデビューした暁テル子という歌手がいる。パンチの足りない笠置シヅ子といった感じの人で、彼女のヒット曲に『東京シューシャインボーイ』 というのがあった。

サーサ皆さん 東京名物
とってもシックな 靴みがき
鳥打帽子に 胸当ズボンの
東京シューシャインボーイ

僕の好きな あのお嬢さん
今日は まだ来ないけど  
きっと 彼女は来てくれる
雨の降る日も 風の日も

という、ヒラヒラと明るくも物悲しい唄である。

私がこの曲を知ったのは、ロバート・アルトマン監督の『M★A★S★H』(1970) だった。朝鮮戦線を舞台にしたコメディで、東京から届くラジオ放送から流れるこのメロディが、シーンをつなぐ効果的な小道具として使われていたのである。
(この映画は秀作だが、スピーカーのアイデアがなければ収拾がつかなくなっていたと思われる)

さて、続いて3番の歌詞の後半部分。

赤い靴のあのお嬢さん
今日もまた銀ブラか
きっとお土産チョコレート
チューインガムにコカコーラ

ガムとチョコレート、そしてコーラは進駐軍の、そしてアメリカ文化の象徴だったのですね。『東京シューシャインボーイ』 は昭和26年(1951)のヒット曲で、暁テル子は2年後の第三回NHK紅白歌合戦にこの曲で出場し、番組は全国放送(ラジオですが) されている。
『ALWAYS 三丁目の夕日』 の舞台は東京の下町ということだが、見たところ神田界隈をイメージしているように思える。出征した経験をもち、米兵の闊歩する東京の繁華街を知り、闇市やPXの流出品も目の当たりにしているだろう東京の人間が、コカコーラを知らないとは思えないのだ。

あの場面では、細かいようだが

「ババァ、コカコーラじゃねえか」
「買えるようになったのさ」

くらいが自然なのではないだろうか。

 
この映画、最初は感心したのだけれど、再見すると昭和のガジェットの使い方のあざとさが少々気になるようになった。見せ方がどうにも教科書的、年表チックなのだ。以前も述べたように、映画的な嘘はいくらあっていいと思うのだけれど。

私は歴史関係の著述が多いので自戒をこめて書くのだが、その時代を知らない者が年表の記載を中心に風俗をふりかえるのは非常に危険なのですね。やはり当時を知る人から話を聞くか、さまざまな手記や資料を丹念に当たるしかないのだ。

 
『三丁目の夕日』、続編を撮影中だそうだ。いろいろな意味で楽しみではある。


 
 

 

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