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2007/02/10

戦いの曠野にて

仕事が早く終わったので、近所の生協に立ち寄った。混迷する21世紀の資本主義経済の中で、プロレタリアートの前衛たらんとする生活協同組合のマーケットは、わたくしのこよなく愛する場所のひとつである。

駐車場に車を乗り入れた時点で、すでに異様な雰囲気であった。午後も早い時間なのに、ほぼ満車状態なのである。車を降り、足早に店へむかう労働者たちは一様に無言だ。熱い連帯の挨拶を送ることもできず、わたくしは同志の列に加わり店へと向かった。店の入り口には一枚の張り紙が掲示されている。

「店舗改装のため在庫処分セール」

今日がセールの最終日らしく、商品のほぼ全品が半額というまさに革命的状況であった。入り口に常備されているはずのカートの姿はなく、籠もほとんど見当たらない。緊張が高まる。

広大な店内はすでに、東ベルリン封鎖を前にした市民のパニックのごとく、喧騒と混乱の極みにあった。カートに載せた2つの籠に商品を満載した人民で通路は塞がり、棚の商品はほとんど姿を消している。あちこちであがる怒号と悲鳴、空の棚を指差して若い店員に詰め寄る男、激突するカートとカートから発せられる金属音、踏まれる野菜屑、親を見失い彷徨する幼児。
加工食品売り場では、老獪な店員が「こちらは割引対象外です」 という張り紙の前に巧妙に立ち塞がり、つくりすぎたお惣菜をすすめている。大混雑のなかでバランスを崩し、棚に手をついて転ぶ小学生の前に崩れ落ちる、売れ残った江戸むらさきの瓶。両手に抱えたまぐろフレークの缶詰が実は猫缶であったことに気づき、レジの前で愕然と立ちつくす老婆。会計を待つ長い行列では、労働者たちがその顔に色濃い疲労と諦観を滲ませている。

わたくしは商品のすっかり消え去った酒の売り場に近づいた。一番下の棚の奥をふと見ると、おお、生協ウイスキーの紙パック1.8リットル詰がひとつ、奇跡的に売れ残っているではないか。わたくしは躊躇することなく手を伸ばした。
 
初めて手にすることのできた労働者の酒、カーム。これはスコットランドの生協連、そして酒造労働者たちとの連帯から生まれたウィスキーである。 Calm -静謐- という名は、組合員の投票により民主的に命名されたものだという。質実剛健、虚飾を廃した再生紙の紙パックには、鎌とハンマーのマークこそないものの、CCCP、いやCOOPの文字が誇らしげに印刷されている。

人民の友、革命的蒸留酒を手に、わたくしは幸せな気分で行列の最後尾についた。
 
 

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