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2007/02/16

求む男子、苦難の旅

 
近年、公立学校の図書費というのはどこも惨憺たる状況で、新刊図書の購入に苦労している。
私の勤めているいくつかの学校でも、とてつもなく古い本が書架に並んでいる図書室が多い。これは生徒には気の毒だが、実は本好きとしては意外と面白かったりするのである。

都下K市の、ある中学校。図書室で生徒に作業をさせながら書架を眺めていたら、冒険譚の名作が妙に充実しているのを発見した。フリッチョフ・ナンセンの『極北』(福音館日曜日文庫)、A.G.ホール『ナンセン伝』(岩波少年文庫)、モーリス・エルゾーグ『アンナプルナ登頂』(同) から始まって、トール・ハイエルダール『コンチキ号漂流記』(あかね書房)、70年代に主婦と生活社から刊行されていた、クストー海洋冒険シリーズといった古典的名作が数多く揃っている。ル・フェーブルの『中央アジア自動車横断』(白水社) がなにげなく並んでいたのには驚いた(注)
 
日本勢も定番の『太平洋ひとりぼっち』(堀江謙一)『極北に駆ける』(植村直己)『太平洋漂流実験50日』(斎藤実)、南極航海記(木崎甲子郎)などが並び、珍しいところでは、『松浪先生 アフガン秘境を行く』(大日本図書) なんてのもありました。本会議水ぶっかけ事件で話題になった松浪健四郎の若き日のアジア旅行記で、表紙のタイトル「松浪先生」 のところにちゃんと「ちょんまげせんせい」 とルビがふってある。ジュニア向けだが、意外にも(失礼) 好感のもてる内容であった。

文庫の棚に目を移すと、未読だったアルフレッド・ランシング『エンデュアランス号漂流』(新潮文庫) があるのを発見。たまらず借りてしまう。今世紀初頭、初の南極大陸横断に挑むが、途中で遭難することになったイギリス人探検家、アーネスト・シャクルトンの苦難の記録である。氷の海で17ヶ月におよぶ漂流を生き延び、乗組員28人はひとりも失われることなく生還するのだ。
あまりの面白さにあっという間に読了した。隊員たちのサバイバルストーリーも魅力的だったが、やはりカリスマ性と不屈の意思をもつシャクルトンという人物に心を惹かれた。
彼がロンドンの新聞に掲載したという隊員の募集広告はあまりにも有名である。このコピーを見て、五千人以上の志願者が殺到したという。


MEN WANTED for Hazardous Journey. Small wages, bitter cold, long months of complete darkness,constant danger, safe return doubtful. Honor and recognition in case of success.
――― Ernest Shackleton.

「求む男子。至難の旅。僅かな報酬。極寒。暗黒の長い日々。絶えざる危険。生還の保証なし。成功の暁には名誉と賞賛を得る」


本書の邦訳は遅く、1998年である。翻訳のきっかけになったのが、カムチャッカで亡くなった写真家・星野道夫氏の紹介であることをあとがきで知った。一読をおすすめします。

End

 
 
注… 1920年代から30年代にかけて実現した、特殊装備を備えた自動車による初めての大陸横断探検の記録。中央アジアではヒマラヤ越えにも挑んでいる。使用された車はフランスの自動車メーカー・シトロエン社のもので、そもそもこの探検自体、宣伝上手だった同社の社長、アンドレ・シトロエンによる発案である。学術探検でもあるというところがウリで、のちにアフリカ大陸への遠征もおこなっている。それぞれのキャラバンを「黄色い艦隊」「黒い艦隊」と名づけてしまうところが、まあ時代ですな。
 
古いシトロエンに乗っている物好きが身近にいたら、この話題を持ち出さないほうが無難。長話になる恐れがある。 
 

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