« サイクリング日和 | トップページ | どんなもんじゃい »

2006/08/03

追悼 吉村昭

作家の吉村昭さんが亡くなった。

歴史小説の第一人者で、30年近く愛読していた作家だった。朝日新聞に昨年連載していた小説『彰義隊』の単行本出版記念として、年末に行われたトークショーでお元気な姿を拝見していたので、今回の訃報はショックだった。

http://speedbird.air-nifty.com/speedbird911/2005/12/index.html
(12月18日)

恥ずかしいので書かなかったが、講演が終わり、著書に署名して頂くときに、私は自分の本を吉村さんに差し上げたのである。私の本で取り上げた北海道の歴史的建築、とくに監獄建築に興味を持ったきっかけは、氏の『破獄』、『赤い人』などの作品の影響だったからである。
緊張してろくに説明できなかった私を、あの「刑事と間違えられる」 という鋭い目で見据えた吉村さんだったが、帰り道に東京駅でお見かけしたら、本が入った袋を提げておられたのでほっとした。あのときもう少しお話できればよかったと悔やまれる。

吉村氏は徹底して資料や証言を重視する作風で知られるが、氏の小説を読んで、歴史へのアプローチの方法というものをいろいろ考えさせられた。
『戦艦武蔵』『深海の使者』など、太平洋戦争でのエピソードをテーマにした作品が数多いが、昭和40年代の半ばから、この分野の作品はほとんど書かなくなっていた。作品を仕上げるに足る証言を得ることが難しくなったのだという。確かに、私が小中学生だったころは、まだ戦記に登場するような旧軍人が数多く余生を送っていたのである。平成18年の現在、軍人恩給を受け取っている旧陸海軍関係者に、すでに将官はいないと聞く。
『海の史劇』における日本海海戦の描き方、『生麦事件』での島津久光の性格描写を、司馬遼太郎の同テーマの作品と比較してみると興味深い。どちらが優れているというわけではないのだが、作家の資質とは何か、ということががわかるような気がするのである。

数年前に職場の中学校で、生徒におすすめの本はないかと司書の先生に聞かれて、吉村氏の『漂流』を推した。『戦艦武蔵』、『高熱隧道』、『背中の勲章』、『熊嵐』と、初めて読んだときに震えるような感動を覚えたものだ。若い世代の人に、もっとこの作家の作品に触れてほしいと思う。


|

« サイクリング日和 | トップページ | どんなもんじゃい »

「日記」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/81538/11230890

この記事へのトラックバック一覧です: 追悼 吉村昭:

» お盆で里帰り [北海道岩見沢発・上田ひさしの今日このごろ]
 お盆の墓参りをかねて実家に戻りました。3時間弱北上した苫前町九重です。 実家からさらに奥に20キロくらい行くと、「熊嵐」という小説にもなった場所があります。 大正4年に実際に起った悲劇です。10人の婦女子が殺害された現場を復元した施設があります。 �... [続きを読む]

受信: 2006/08/15 21:46

« サイクリング日和 | トップページ | どんなもんじゃい »