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2006/08/05

稀代の名著 その2

バミューダ三角海域の話の続きです。

 
船舶や航空機の消失事件の多くが合理的に説明がつき、ミステリーとされているものは故意につくられたものである、というのがクシュの結論である。

「まず杜撰な調査に始まり、ついで誤った概念や間違った推理、あるいはセンセーショナリズム好みの作家たちの手によって故意に、あるいは無意識的に修飾されてできたものにすぎない。それが、無意識的に繰り返し語られたおかげで、真実めいた霊光(オーラ)をおびてきたのである」(同書より)

長文になるが、本書のエピローグから紹介しよう。文中に登場するルビコンやマリン・サルファー・クイーン、フレヤ、グローブマスターなどは、バミューダ三角海域で消失したとされる船舶や航空機の名称である。

1  充分なデータが発見されれば、たいていの事件についての論理的な説明がつく。たとえば、ルビコン事件でも、同船が港に繋留されていたときからハリケーンが襲ってきていたとすれば、ミステリーとは考えにくくなる。マリン・サルファー・クイーンの構造上のけ官と、沿岸警備隊の調査報告に記載されている天候条件とについて知れば、同船の消失をミステリーと考えること自体がむずかしくなる。

2  二・三のごく稀な例外を除き、謎の解けない事件は、データ不足である。かなりの事件において、重要なデテールの部分が、そして一部においてはその全体が、完全なフィクションであった。

3  消失事件は、海洋全体で、時には陸上ですら起こっている。私の研究中、ニューイングランドから北ヨーロッパにいたる各地で一八五〇年以来、二〇〇以上の船あるいは飛行機、またはその乗員が消えている事実が発見されている。
バミューダ三角海域中で発生したとされる消失事件のなかには、同海域以外のところで起こったものがかなり混っている。たとえば一九〇二年に太平洋で発見されたフレヤ、一九五一年にアイルランドで墜落したグローブマスターなどがその好例である。いわゆるバミューダ三角海域ミステリーの全部を図示すれば、それらが、カリブ海、メキシコ湾および北大西洋全域にわたって起こったことが明らかになり、バミューダ三角海域のユニークさは失われる。

4  行方不明の飛行機・船のうちには、バミューダ三角海域を通過しただけなのに、そこで消えたとされているものがある。たとえばアタランタは、バミューダからイギリスまでの間のどこで沈んでいても不思議はない。

5  多くのケースで、犠牲となった船・飛行機の最終地点はまったく不明で、広大な海域のどこでもありうることが多いのである。たとえばスター・タイガーに関していえば、同機はバミューダとジャマイカの間で落ちたということが判明しているにすぎない。

6  多くの事件は、発生した時点では少しも不思議と思われてはいず、何年も何十年も後に、バミューダ三角海域の材料を集めていた研究家が、それに言及してはじめて怪事件となっている。起こって何十年もたった事件について完全な情報を探しだすことは、しばしばきわめて難しい。

7 流布している<伝説>とは裏腹に、事件発生時の天気は、たいていの場合悪かった。かなりの事件で、よく知られているハリケーンが犯人である。

8  多くの事件が、夕方あるいは夜間に起こっていて、翌朝までは捜索隊が目で確かめることを困難にしている。このあいだに、海は、あったかもしれない残骸その他を、散逸させてしまうことが十分にできた。

9  この事件について書いている作家の多くは、独自の調査をせず、以前の作家たちの書いたものを自己流に踏襲しているにすぎない。その結果、間違いの多くはそのまま温存され、大袈裟な尾鰭がついてくる。

10  相当数の事件で、作家たちは、消失を解明するはずの明白なデータを故意に隠している。

これらの考察のうち、とくに9は、現在も流布しているさまざまな伝説、たとえば「ホロコーストの虚構」 であるとか、以前に紹介した「アポロ月着陸の嘘」 などにもそっくりあてはまることがわかる。インターネットの普及で、大袈裟な尾鰭をつけることができるのは一部の作家ではなく、HPやブログをもつすべての人間になっているのだが。
  
『魔の三角海域』出版後、潮が引いたようにこのミステリーのブームは去っていった。その後いくつか新説も登場しているが、クシュの研究を論破できる内容に出会ったことがない。メタンハイドレード原因説などは面白いけれど、「船舶や飛行機が謎の消失をしている」 ことが前提になっているので議論にならないのだ。
現在もテレビのバラエティ番組で、思い出したようにバミューダ・トライアングルが紹介されることがあるが、本書の研究は意図的に無視されていることが多いのである。

次回に続きます。

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