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2006/08/05

稀代の名著 その3

 『魔の三角海域』 を翻訳した福島正美が、あとがきで興味深い文章を残している。福島は日本SF黎明期の名編集者。惜しくも早逝したが、作家・評論家としても活躍した人物である。サイエンス・フィクションが一般的に認知されていなかった時代からのパイオニアであり、指導者、教導者的な立場にあったようで、その文章もいま思えばかなり臭みがあるのだが、面白いのでこちらも紹介してみたい。

 かつて円盤(UFO)肯定論者は少数派だった。アトランティスや、ムーの研究家も、ごく限られていた。超能力の可能性を、一つの仮説として探ろうとする者の数も、知れていた。だが彼らは、誇り高い少数派だった。日常感覚のぬるま湯に浸りきって、いっさいの危険な思想に触発されないことを正常さの証拠として信じている大多数の明盲たちを尻目に、はるかな宇宙空間との、膨大な時間の彼方の世界との、人知を超えた超越者との関連を夢み、そのためエリートたるの資格を持つと自負していた。
 だが、このところ、かつての少数派は、多数派に変わろうとしている感がある。いまやUFOの飛来を――超古代文明の存在を―― 先史時代における宇宙人の来訪を―― 超能力の存在を信じないものは、すべて偏狭な精神的盲者として蔑まれそうな気配がある。
 一歩退いて、この絵を心に思い描いてみるがいい―― この地球が、ひっきりなしに、他の惑星からの宇宙船の偵察をうけている。しかもそれは、昨日今日始まったことではなく、遥か先史時代から、継続的に行われてきた。そして、そうした宇宙人から教えられた技術によって建設されたさまざまの土木事業や建築物が、いま謎の遺跡として、世界中に存在する。それと同時に、世界の他の部分が、まだ中石器時代に低迷していたとき、すでに鉄器文明の―― いや、場合によっては現代以上の、スーパーサイエンス技術さえ持っていたと思われるアトランティスやムーが、大西洋と太平洋上に存在したというのである。さらには、現在この瞬間にも、現代物理学を根底から覆すほどの意義をもつ超能力を備えた人物が、世界中に―― いやこの日本にも、おそらく数千人も実在するという。そして、アメリカ南東部海域や、日本の東南海上をはじめ、世界中の一ダースもの地域で、船や飛行機やその乗客・乗員を文字通り蒸発させてしまう、不可思議な現象は日夜起こっているというのである。
 どう考えても、フィクションである。もし現実が、これほどドラマティックで、同時にファンタスチックあるとするなら、われわれは退屈する暇さえないだろう。(後略)

 福島は 「興味本位に走りすぎ、センセーショナリズムに毒されすぎて、当然あっていいはずのごく当たり前の解釈をなおざりにしている」 現状を嘆き、こう続ける。

 なぜ彼らは、仮説を仮説として提示し、フィクションをフィクションとして楽しむことに満足しないのだろうか? なぜ彼らは、仮説を、あるいはフィクションをすら、現実と直結しようと躍起になるのだろうか。仮説から検証を飛び越して、一気に一般法則として短絡したがるのだろうか?

 繰り返すが、これは30年前に出版された本なのだ。21世紀の現代でも思い当たることはないだろうか。
 インターネット時代が到来し、あふれる情報の中から正しい情報を選び取ることの重要性があらためて認識されるようになった。今でもこの古い本から学べることは多いようである。
 
(引用はすべて『魔の三角海域 -その伝説の謎を解く』 ローレンス・D・クシュ 角川文庫版より)


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