« どんなもんじゃい | トップページ | 稀代の名著 その2 »

2006/08/04

稀代の名著 その1

 小学生のころに父親が買ってくれた一冊の文庫本があって、この本だけは30年たった今でも処分する気になれず、本棚に並んでいる。ローレンス・D・クシュの『魔の三角海域 ―その伝説の謎を解く― 』(The Bermuda Triangle Mystery -Solved  福島正美訳) という本で、角川文庫が出していた海外ノンフィクションシリーズの一冊である。物ごとの真贋をどうやって判断していくかというプロセスを教えてくれた、私にとって宝物のような本だ。

 この本はすでに絶版になっていて入手困難である。本書をご存知で、もし何らかの手段で入手したいと思われる方は、今回から数日にわたって大幅に引用しますので、お読みにならないようお願いします。

 
 1970年代前半のことである。石油ショックに始まるインフレと社会不安のなかで、終末論的な書籍が数多く書店に並び、さらには超能力をはじめとするミステリーや超常現象、オカルトの大ブームがおきていた。五島勉のノストラダムス本がベストセラーとなったり、テレビでユリ・ゲラーがスプーンを曲げて大反響を呼ぶと、日本中からスプーン曲げのできる子供たちをあつめて特別番組がつくられたり、UFOや宇宙人との遭遇談が毎週のように紹介されたり、しまいにはベルトにスプーンを押し付けて曲げていた少年が証拠写真とともに新聞ですっぱ抜かれたりと、さまざまな騒動が起きていた。
 
 バミューダトライアングルもそのころに注目されたストーリーだった。アメリカ南東部の大西洋岸、フロリダとバミューダ、プエルトリコを結ぶ三角形の海域上で、晴天にもかかわらず、数多くの船舶・航空機が痕跡を残さずに消失しているというミステリーである。幽霊船メリー・セレストの謎や、スピルバーグの出世作、『未知との遭遇』 で冒頭のエピソードとなったアメリカ海軍の第十九編隊、アヴェンジャー雷撃機の失踪はとくに有名だ。

 三角海域のエピソードを紹介するさまざまな本に飽きたころ、クシュの本に出会ったのである。驚いたことに、本書はそれまでのミステリー本とはまったく趣が異なっていた。
 著者はアリゾナ州立大学図書館の職員(のち館長)で、バミューダ三角海域に関する資料の問い合わせが多いことに好奇心を抱き、自ら研究をはじめた人物である。学生時代に資格を取得した民間パイロットでもあり、これが航空機の消失事件を解釈する上で大きな力となったという。
  
 クシュがまず注目したのは、流布しているさまざまなエピソードが真実なのかということであった。彼は図書館員としての立場を活用し、まずロイズ船級協会の資料にあたる。ご存知の方も多いかと思うが、ロイズはイギリス最古の保険組合である。
 消失した船の多くは商船であり、積荷の喪失は船主、雇主にとって大打撃となる。船舶保険の支払い状況が確認できれば、遭難事故の真贋を確認できるのだ。彼は続いて、消失事件が発生したとされる日時のバミューダ海域の天候状況をさまざまな記録から洗ってゆくのだ。

 クシュは現地におもむくことはしない。いわばホームチェア・ディテクティヴ(安楽椅子探偵)の立場にあるともいえる。その謎解きの過程はまるで上質のミステリー小説のようで、読み進めていて興奮を押さえられなかった。そして彼はひとつの結論に達するのである。

バミューダ海域にいっさい謎など存在しない、と。

  
次回に続きます。
 
 

|

« どんなもんじゃい | トップページ | 稀代の名著 その2 »

「書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/81538/11264455

この記事へのトラックバック一覧です: 稀代の名著 その1:

« どんなもんじゃい | トップページ | 稀代の名著 その2 »